酸化還元電位(ORP)


酸化還元電位について

酸化還元電位(Oxidation Reduction Potential)とは酸化させる力(酸化体の活量)と還元させる力(還元体の活量)との差を電位差で表したもので、ネルンストの式によって導き出すことができます。ORPの値がプラスであれば酸化力が強く、マイナスであれば還元力が強いということになります。つまり、ORP値がプラスなら酸化体が多くあり、マイナスなら還元体が多くあることになります。ちなみに、水での代表的な酸化体は酸素(O)、還元体は水素(H)で、これらの酸化還元電位は、水素が-420mV、酸素が+820mVです。このことから水の酸化還元電位は水素と酸素の酸化還元電位範囲内の-420mVから+820mVにあることになります。(酸化と還元については 酸化と還元【酸化還元反応】 を参考にしてください)

水槽での酸化還元電位について

ここでちょっと考え方を変えて酸化還元電位を見てみると、酸化力が強いということは酸化体が多いことなので酸素が多く、酸化力が弱いということは酸化体が少ないので酸素が少ないと考えることができます。つまり、酸化還元電位の高低によって容存酸素量の高低を判断することもできることになります。普通、タンク内にエサや糞、または死骸などの有機物が多く存在すると有機物を分解するために多くの酸素が消費され、結果として酸化還元電位が下がることになります。
具体的には、有機物である尿素CO(NH2)2は水と反応してアンモニアNH3に分解され、分解されたアンモニア分子一つがが硝酸塩NO3に分解されるまでに二つの酸素分子を消費する事になりるため、酸化対が減少し酸化還元電位が低下します。

CO(NH2)2 + H2O 2NH3 + CO2
NH3 + (3/2)O2 NO2- + H2O + H+
NO2- + (1/2)O2 NO3-
NH3 + 2O2 NO3- + H2O + H+

このことは酸化還元電位が低いほど、酸素を消費する有機物などの有害な成分が多い(好気バクテリアが沢山働いている)と判断する事ができることとなるわけです。
通常リーフタンクでは酸化還元電位はだいたい350mVから400mVくらいを目安として調整するようにしますが、これが300mVだとしてもタンク自体の調子が良ければ特に問題はないといわれています。(どれくらいが下限だかよく分かりませんが、自然界での平均はだいたい320mV以上だそうです。)

実際には、リーフタンクでのORPは値がどれくらいかというよりも、どちらかといえば値がどのように変動しているかが重量なファクターとなります。安定した状態のタンクであれば、ORPはだいたい一定の振り幅で落ち着き大きな変化はおきません。だいたい、昼照明を点けていて夜照明を消しているパターンのタンクでは、光合成が始まる直前の朝がORPの値が最も高く、照明が消える直前では低くなる傾向にあります。(これは水素イオンの増減によるものだと思います)

CO2 + H2O
CO32- + 2H+ ・・・水素イオンH+は酸化体
CO32- + H2O
HCO3- + OH- ・・・水酸イオンOH-は還元体

海藻や褐虫藻が多く含まれるタンクでは照明があたる時間は光合成により、酸素(とグルコース)が供給されますので、ORPも上昇する傾向にあります。

6CO2 + 6H2O → C6H12O6 + 6O2

夜間には海藻、褐虫藻も魚やバクテリアと同じに酸素を消費し二酸化炭素を排出します。二酸化炭素CO2は水H2Oと結合し、炭酸イオンCO32-と水素イオンに変化します。

CO2 + H2O
CO32- + 2H+

ORPは酸化体の増減により値が増減するので、これが総ての要因ではないのですが水質が安定した状態では酸化体や還元体の変化は水素イオンの増減によるものと思っていいようです。

水槽での酸化還元電位活用

結局の所、酸化還元電位で何がわかるのかというところになるんですが、単純にいってしまうとタンクの状態がわかるということになります。前記しましたが、タンクでは直接の値よりもどのように変化をしたかの方が重要です。ORP値をモニタする事によって水質の状態や水のできあがりや、タンクの生体飼育許容量等を判断することができます。

水のできあがりを知る
タンクの立ち上がり時の、ORP値はだいたい低い値になります。水ができあがってくるに従ってORP値がだんだん上昇してきて、あるところでほぼ一定の値となります(朝夕の振幅や多少の変動は常に起こりますので、平均して安定すれば問題はないと思います)。この時点で、水はできあがったと判断できます。

タンクの生体許容量(濾過能力)を知る
ORP値が安定しているタンクに新たに生体を加えたとします。加えた生体の大きさや数にもよりますが、生体を入れた直後からORP値が下がり始めます。許容量が十分であれば、ある程度下がると再びORP値は上昇し、生体を入れる前の値とほぼ同じ値になります。許容量に余裕がくなってくると、最終的なORP値が生体を入れる前の値より、だんだん低い値で安定するようになり、許容量が十分でないとORP値が下がり続けるか、かなり低い値となります。経験的には6時間くらい、遅くても約24時間でORP値は復帰するようです。これを過ぎても復帰しない場合は、やはり許容量を超えていると判断する方が良いと思います。この場合、直接の原因である生体の数を減らすか、新たにライブロックやライブサンドを追加したり、プロテインスキーマの能力を上げたりする等してキャパシティを上げてあげる必要があります。

タンクの状態を知る
ORP値の急激な下降(上昇)でタンク内に何か異常が発生している可能性があることがわかります。通常安定しているタンクではORP値も平均してほぼ一定の値を示していますが、酸化体と還元体のバランスが崩れるとORP値は大きく変動します。

生体が死滅した
生体が死んだ場合、死体を分解するバクテリアが酸素を消費するので、ORP値は下降します。この場合、ORP値は最初は少しずつ下がりはじめますが、ある時点から急激に下降します。早急に原因を排除する必要があります。(サンゴなどの場合は腐食部分を早く摘出します)

あまり大きな生体はだめですが、スカベンジャー(ヤドカリや不肉食性の貝など)を入れておくと、バクテリアが分解を始める前に綺麗に平らげてくれます(傷んだサンゴなどは食べてくれないみたいです)。

コケや海藻が死滅
これも生体の死滅と同くでバクテリアによるものと、酸素の供給源が絶たれてしまう事によるものとの原因があります。水替えが有効な手段だと考えられます。だたし、酸素の供給源として海藻が置かれていた場合は新たな供給源を投入する必要があるでしょう。

プロテインスキーマの不調
プロテインスキーマの能力が低下すると、ORP値も下がります。元々、タンクの容量に見合ったプロテインスキーマを使っているのならば、考えられる原因は、故障などによる停止や不調、始動し忘れ(掃除の後など)、汚れ等です。エアーストーンで気泡を発生させるタイプの物はエアーストーンが古くなり目詰まり等で細かい気泡が出せなくなると、正常に機能しなくなるので交換が必要です。また、汚れが内部に付着すると能力が低下します。定期的なメンテナンスを心がけましょう。

あたりまえといえばそれまでですが、コレクションカップ一杯に汚水(水)が溜まると全く機能しなくなります。コレクションカップ周りの掃除は少なくても週に1回くらい、汚れていたら直ぐにするようにしたほうが良い結果が出るようです。

オゾナイザーの不調
リーフタンクではあまりオゾナイザーを使っている人はいないかもしれませんが、オゾンによりORP値は上昇します。つまり、オゾナイザーを使ってORP値を維持している場合、オゾナイザーの能力が低下するとORP値も低下します。掃除や調整(UV球の交換なども)を行って、オゾンの量を復帰させれば、ORP値は元に戻ると思います。


水槽での酸化還元電位変動の主な要因

なんだかんだとグダグダ書きましたが、安定したタンクでORP値が変動する主な原因をまとめてみました。

朝夕(照明のON/OFF)でのpH変動
ORP値は水素イオンの増減(pH値の増減)により変動します。pHと反作用の関係にあります。

生体をを追加した
新しく生体を入れると、ORPは一時的に低下します。濾過能力が十分であれば元に戻ります。許容量を超えると元に戻らなくなります。

粗悪なライブロックを入れた
十分にキュアリングされていないライブロックを投入すると、ライブロックに付着している生物が大量に死滅する事があります。また、良質なライブロックであっても、水合わせがきちんと出来ていないと大量に付着生物を死滅させる可能性があります。

水替えや大量に足し水をした
水替えをすると一次的にORP値は低くなります。また水分の蒸発などで足し水をする時に大量に水を足すとORP値が下がる事があるようです。

魚やサンゴ等の生き物が死だ
生体が死んだ場合、死体を分解するバクテリアが酸素を消費するので、ORP値は急激に下降します。

コケが大量に死んだ(海藻が死んだ)
コケの掃除等で大量のコケが死滅したり、海藻が死滅するとORP値が下がる事があります。

エサを大量に与えすぎた
食べきれないほどの餌をあげると、残ったエサを好気菌が頑張って分解するため、酸素が消費されORP値が低下します。

添加剤を使った
添加剤によっては一時的にORP値が高くなったり、低くなったりするものがあります。ヨードや過マンガン酸塩カルシウムや含まれているものでは上昇するようです

プロテインスキーマの汚れ(又は故障)
プロテインスキーマが汚れてくると、処理能力が低下するのでORP値が下がります。エアーポンプ式の場合エアーストーンが古くなると能力が低下します。また、故障や砂が噛んだりして正常に動いていない場合もあります。

オゾナイザーの汚れ
オゾナイザーの場合は汚れというのかどうか定かではないのですが、能力が低下するとORP値も低下します。UV球を使う物はUV球が古くなると能力が低下します。


おまけ

ネルンストの式

E = E0 - ( RT / zF ) Ln( Ared / Aox )

 E :   酸化還元電位
 E0:   標準電極側の電位(標準酸化還元電位)
 R :   気体定数=0.08206 atm・dm3 / K・mol = 8.314 J / K・mol
 T :   絶対温度(K)
 z :   溶液イオンの原子価
 F :   ファラデー定数=96,485 C mol-1.
 Ared : 還元体の活量
 Aox : 酸化体の活量


back 戻る